7月13日、テレビ朝日系『題名のない音楽会』で放送された、かてぃんこと角野隼斗さんの《木枯らしのエチュード》。
その圧倒的なテクニックと豊かな表現力の背景には、
6歳から師事してきた恩師・金子勝子先生との長い積み重ねがあったそうです。
金子先生は87歳、ピアノ指導歴60年。これまでに500人以上の生徒を育ててこられました。
「ハノンのような基礎練習も、常に音楽的に」「音のつながりを大切に」
そんな指導のもと、角野さんは日々の練習に意味を見出し、地道な積み重ねを続けてきたそうです。
中でも、金子勝子先生監修の「指セットplus HANON」と呼ばれる教則本は、2(人差し指)や4(薬指)の動かしにくい指を重点的に鍛えるもので、
スケール内でのスタッカートとレガートの弾き分け、和音の移行など、音楽性とテクニックの両方を育てる内容です。
角野さんは今もなお、この練習を毎日欠かさず続けているといいます。
金子先生が大切にされているのは、
「音楽はこうあるべき、ということを徹底して伝えること」
そして、「生徒自身よりも、先生がその子の可能性を信じること」。
角野さんも、「自分より先生のほうが、自分を信じてくれていた」と語っていました。
実は私の教室でも、この教本を何人かの生徒さんに渡してきました。
ハノンですら苦手意識を持つ子が多い中、この本はさらに難易度が高く、
途中で挫折してしまう子がほとんどです。
でもその中で、
毎週きちんとこの本を練習して持ってきてくれる生徒さんがいました。
その子は今も、感情のコントロールに悩むことがあります。
自分の気持ちを素直に音にのせるのが難しく、もどかしさを感じることも少なくありません。
だからこそ思うのです。
これからの人生で出会う喜びや悔しさ、別れや感謝、心が揺れ動く瞬間のすべてが、
その子の中に少しずつ積み重なっていって、
やがてピアノの音にあらわれてくるのではないかと。
そして、その経験が、
きっとその子の心をますます豊かにしてくれるはずだと。
音楽を学ぶということは、
自分の中にある感情を知り、それを音で表現できるようになること。
そして、日々の練習こそが、
その“気持ちを音にする力”を育ててくれる。
焦らなくていい。
いつか、心のままに音楽を奏でられる日が来ると信じています。